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寄与リスクを原因確率とすることの問題[]

「100mSvの被ばくをした人々のうち、そのために死ぬことになるのは1000人中5人である。そもそも人間にとってがんは自然に発症するものであって、日本人のガン死亡リスクは2割である。すなわち、1000人のうち200人。これが5人増えてもたいした違いではない」。

上記に類する(数字は上下する)のステートメントは2011年3月11日以降、日本のマスメディア、科学者、政治家、ネットワーク上での幾多もの発言で繰り返された、例えば以下は、ウィキペディアの「低線量被曝問題」からの一部引用である。

ICRPは、100mSv以下の被曝線量域を含め、被曝線量とその影響の発生率に比例関係があるとするモデル(直線しきい値無し(LNT)仮説)に基づいて放射線防護を行うことを推奨しており、このモデルに基づく全世代を通じたガンのリスク係数を提示している。それは100mSvあたり0.0055(100mSvの被曝は生涯のがん死亡リスクを0.55%上乗せする)に相当する。2009年の死亡データから予測される日本人の生涯がん死亡リスクは約20%(生涯がん罹患リスク〈2005年のデータで予測〉は約50%)である[7]。 低線量被ばく問題:放射線影響研究所ウェブサイトより。

死亡リスクの推定は、これまでに起きた放射線被ばくとその健康に対する影響の調査結果から疫学的に導かれた結果を利用して行われる。特に広島・長崎の原爆被ばく者に対する寿命調査(LSSとも呼ばれる)が、その基礎になっている。

とはいえ、このリスクの計算方法の妥当性に関して言及した記事はあまりみかけない。以下は、この点でより注目を浴びるべき、とおもわれる「過剰相対リスク」や、「寄与リスク」といったリスク算定のための指標に関する原理的な問題について言及した文章の抜粋・リンクなどである。

なにが問題なのか。荒っぽく述べるとこれは、寄与リスクや過剰相対リスクといった疫学データから算出される「過剰な死」ないしは「過剰な発症」の度合いを、被ばくを原因とする健康被害の「原因確率」とみなすと、被害の規模の評価としては過小評価になるという1980年代よりサンダー・グリーンランド(UCLA公衆衛生雅学部疫学教授)が警告している問題である。原爆症認定問題においては、この問題が議論され、過小評価であるとすでに認められている。しかしながら、福島第一原発の事故以降の議論の中では、その過小評価であることが忘れ去られたかのよう通用している。放射線影響研究所の以下のページもまた、過剰リスクでのみ、影響の評価を一般に説明している。

http://www.rerf.or.jp/radefx/late/cancrisk.html

未整理[]

興味深い議論がコメント欄に。 http://ttchopper.blog.ocn.ne.jp/leviathan/2005/09/post_1ec0.html

日本における「寄与リスク」は次の報告書が公式のものと考えてよいだろう。

厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究事業 平成12年度総括研究報告書 放射線の人体への健康影響評価に関する研究 主任研究官 児玉和紀 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/dl/s1004-7h.pdf

  • 原子爆弾被爆者認定申請の訴訟でも度々登場している。

2007年(平成19年)12月5日 原爆症認定の在り方に関する検討会[]

http://shoruisouko.xsrv.jp/kntk/Iken_to6th_071205.pdf

2007年(平成19年)12月5日 原爆症認定の在り方に関する検討会 日本原水爆被害者団体協議会 事務局長 田中 巳 原爆症認定集団訴訟 全国弁護団連絡会 事務局長 宮原 哲朗

意見の取りまとめについて

以下「3 明らかになった原因確率論の不合理 」抜粋を示す。

「原因確率論」は、疫学上の寄与リスクを「原因確率」と称し、その値が「疾病等の発症が原爆放射線の影響をうけている蓋然性がある確率」を表すものとして扱う手法です。この「原因確率論」についても、検討会の議論を通じてその誤りが明確となりました

第一に、第2回検討会で意見を述べた齊藤紀氏や検討会に意見書を提出された東北大学の坪野氏からは、疫学上の寄与リスクを上記の意味での「原因確率」として扱うことについて根本的な疑問が提起され、この点が海外でも強く批判されていることが指摘されています(齊藤氏の第2回資料1、5頁以下。坪野氏意見書脚注3の後半)。この問題については、第3回検討会で原因確率について報告した甲斐委員自身も、「集団についての寄与リスクを個人にあてはめることができること」が前提であることを明示しており(第3回資料4、1項)、また、原子爆弾被爆者医療分科会会長代理である草間朋子氏とともに、「原因確率(寄与リスク)の値が低くても、原爆放射線が発症者全員の発症を促進したり発症にあたって重要な要因となっている場合が存在しうること」を指摘したグリーンランドの研究を詳細に紹介し、「疫学データだけに基づいて個人の原因確率を評価することは不可能である」「放射線発がんの生物モデルを前提にして初めてPC(原因確率)は評価可能である」とする報告書をまとめているのです(厚生労働省「平成13年度委託研究報告書 電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討」)。


平成13年度委託研究報告書 電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討[]

平成13年度委託研究報告書 電離放射線障害に関する最近の医学的知見の検討

平成14年3月

主任研究者 草間朋子(大分県立看護科学大学)

共同研究者  朝長万左男(長崎大学) 明石真言(放射線医学総合研究所) 甲斐倫明(大分県立看護科学大学) 桜井礼子(大分県立看護科学大学)

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/s1023-4.html http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d1.pdf http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d2.pdf http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/10/dl/s1023-4d3.pdf


以下、p15-18からの抜粋である。文献に関してはリンクを付加した。

3. 放射線被曝に伴う確率的影響とPCの考え方

3-1. PCとは

PC(原因確率)は、個人に罹患した疾病とそれをもたらした原因との関係を定量的に評価するための尺度である。リスクが、将来の発生確率を予測することを基礎にしているのに対して、PCは、結果があって、その結果を引き起こした原因の占める割合(etiologic fraction)を意味する概念である。しかし、評価に用いる疫学データの限界から、直接個人を対象とした尺度としての確率というニュアンスを避けるために、Assigned share(Kagakos, 1986)やAttributable fraction (Greenland, 1988)という用語も使われてきた。PCという概念とそれをいかに評価するか、評価した数値の不確かさからくる適用の問題点など多くの論争が行われてきている(Thomas, 200; Greenland, 2000)。

3-2. PC推定の問題点

Greenland (1999)は、疫学調査から得られる過剰相対リスクをもとにした評価値(=r/(1+r))は、PCと等価と考えるのは間違いであることを強調する。 Greenlandらは、個人PCを疫学データのみから推定することは不可能であることを論証している。集団からの情報のみを利用している場合には、PCという用語は適切ではなく、excess fractionあるいはassigned shareと呼ぶべきであると主張する。また、PCの評価には生物学的モデルが不可欠であることが前提となっていることを認識すべきであると主張する。

一方で、RobinとGreenland(1991)は、期待余命損失(Expected years of life lost)のりようが合理的な補償方式であるという見解である。 現在のPCを補償スキームに用いることの問題点は次のようにまとめられる。

1)非特異的疾患における因果関係の問題、3)に関係する問題と考えることもできる。

2)疫学データだけに基づいて個人の原因確率を評価することは不可能である。集団の平均値を個人に当てはめるには集団内の不均一性が問題とされる。PCの不確かさとして扱うこともできる。

3)発がんにおける放射線の関与の仕方によって異なるPCを与える。したがって、放射線発がんの生物モデルを前提にして初めてPCは評価可能である。

4)原因確率が評価可能であるとしても、補償スキームとしては適切ではない指標である。これは40歳と80歳のPCが50%としたときに同じ扱いをされるのは余命損失を考えると合理的ではない。

3-3. 最近の動き PCの様々な問題が指摘されて入るが、現実の訴訟に対する解決策としてNCRPもPCの利用可能性を認める見解をだしている(NCRP, 1992)。

(1)米国

1985年にNIHが作成したPC表の改訂作業が進められている(Department of Health and Human Services, 2001)。この改訂の主たる変更点は、従来の死亡率に代わって発症率を用いたPCの計算である。IREP(Interactive RadioEpidemiological Program)と呼ばれる評価のためのプログラムが作成されている。これは、Energy Employees Occupational Illness Compensation Program(EEOICPA)に基づいて申請のあったがんのPCを評価するためのプログラムの開発(NIOSH-IREP)をNIHの共同で行なっているのが国立職業安全衛生研究所(NIOSH)である。

(2)英国

英国の原子力産業界は、操業初期に比較的高い線量の被ばくした作業者に現れたがんと放射線被ばくとの関係についての訴えを処理するために、PCに基づいた「放射線関連疾病の補償スキーム」を自主的に確立した(Wakeford, 1998)。これによると、PCが50%以上では全額保証し、20%以上ならばPCの値に応じて部分保証を行うというものである。この補償スキームは、あくまでも雇用者と被雇用者との間での合意に基づいて実施されるものであり、作業者が裁判所に訴訟を起こさないことを強制するものではない。PC評価は、BEIR-Vのリスクモデルを採用している。

4-4. PCの推定例 白血病のPCを、原爆被爆生存者データ(Preston, 1994)をもとに評価した結果を図に示す。線量反応関係については、AMLに関しては直線2次であるが、ALLおよびCMLについては直線となっている。被ばく後の時間反応解析では、Prestonらは対数線形モデルを用いている。PCの計算ではPrestonらが原爆データに当てはめて得られたハザード関数のモデル(Background rateおよびExcess rate)を用いた。被ばく後10年までは、統計的変動に伴う不確かさが大きいところに留意する必要がある。 (図省略)

文献

Beyea J, Greenland S (1999) The importance of specifying the underlying biologic model in estimating the probability of causation. Health Physics 76(3): 269–274. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10025652

Greenland S, Robins JM (1988) Conceptual problems in the definition and interpretation of attributable fractions. American Journal of Epidemiology 128(6): 1185–1197

http://aje.oxfordjournals.org/content/128/6/1185.full.pdf+html?ijkey=ec0cc4ecc31b3db44b3bcf3b34a271bde25a92b1&keytype2=tf_ipsecsha

Greenland S (1999) The relation of the probability of causation to the relative risk and the doubling dose: A methodologic error that has become a social problem. American Journal of Public Health 89(8): 1166–1169. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10432900

Lagakos SW, Mosteller F (1986) Assigned shares in compensation for radiation-related cancers. Risk Anal. 1986 Sep;6(3):345-57. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3602505

NCRP; The probability that a particular malignant may have been caused by a specified irradiation. NCRP Statement No.7, 1992 http://www.ncrponline.org/Publications/Statements/Statement_7.html

D.L.Preston et al. : Cancer incidence in atomic bomb survivors. Part III. Leukemia, lymphoma and multiple myeloma, 1950-1987. Radiat, Res. 137 (2 Suppl) : S68-S97 (1994) http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8127953

Robins JM, Greenland S (1991) Estimability and estimation of expected years of life lost due to a hazardous exposure. Statistics in Medicine 10: 79–93. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/2006358

Wakeford R, Antell BA, Leigh WJ (1998) A review of probability of causation and its use in a compensation scheme for nuclear industry workers in the United Kingdom. Health Phys. 1998 Jan;74(1):1-9. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9415576

Department of Health and Human Services, 42, CFR Part 81 GUIDELINES FOR DETERMINING PROBABILITY OF CAUSATION UNDER THE ENERGY EMPLOYEES OCCUPATIONAL ILLNESS COMPENSATION PROGRAM ACT OF 2000; Notice of Proposed Rulemaking, 50967 Federal Register / Vol.66, No.194 / Friday, October5, 2001

http://www.gpo.gov/fdsys/search/pagedetails.action?browsePath=Title+42%2FChapter+I%2FSubchapter+G%2FPart+81&granuleId=CFR-2006-title42-vol1-part81&packageId=CFR-2006-title42-vol1&collapse=true&fromBrowse=true

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